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名古屋地方裁判所 平成9年(ワ)3632号 判決 2000年11月29日

原告

永和物産株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

伊藤倫文

被告

株式会社カンメ

右代表者代表取締役

【B】

被告

【B】

右両名訴訟代理人弁護士

内河惠一

雑賀正浩

近藤雅樹

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告に対し、連帯して金三六九七万五八二七円及びうち金三五〇六万六三四六円に対する平成九年一〇月一九日から支払済みまで、うち金一九〇万九四七八円に対する平成一〇年九月一日から支払済みまで、それぞれ年五分の割合による金員を支払え。

二  被告株式会社カンメは原告に対し、日本経済新聞(尾張版)に別紙記載の謝罪文をその表題並びに原告及び被告会社の各商号は四号活字、その余は八ポイント活字で引き続き二回掲載せよ。

三  第一項につき仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、被告株式会社カンメ(以下「被告会社」という。)が登録出願中の実用新案権に基づき、被告会社が原告の取引先に対して別紙物件目録記載の流動物収納容器(以下「本件容器」という。)の製造、販売及び使用を禁止する旨の警告書等を発送したことが不正競争防止法(平成一一年法律第三三号による改正前のものをいう。以下同じ。)二条一項一一号に規定する「虚偽の事実の告知」に該当するとして、原告が被告会社に対し謝罪広告(同法七条)及び損害賠償(同法四条本文、民法七〇九条)を求め、また、被告会社が実用新案権の侵害を理由として原告に対し本件容器の製造販売禁止の仮処分命令の申立て及び損害賠償等を求める訴えをなしたことが原告に対する不法行為(民法七〇九条)を構成するとして、被告会社に対して損害賠償を求めるとともに、被告会社の代表取締役であった被告【B】(以下「被告【B】」という。)に対し、商法二六六条の三第一項又は被告会社との共同不法行為(民法七〇九条、七一九条一項)に基づき損害賠償を求めている事案である。

二  争いのない事実等

1  当事者

(一) 原告は、プラスチック製容器の製造及び販売等を目的とする株式会社である。

(二) 被告会社は、果実、柑橘類の販売並びに和洋酒類、清涼飲料水及び調味食料品の販売等を目的とする株式会社であり、被告【B】は被告会社の代表取締役である。

2  事実経過等

(一) 被告会社は、平成一〇年一月九日当時、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有していた(乙六、七)。なお、登録前の本件実用新案権のことを以下「本件実用新案」という。

考案の名称 液体等の流動物収納容器

考案者 【B】

出願 昭和五八年八月一〇日(昭和五八ー一二四八六四)

出願公開 昭和六〇年三月六日(昭和六〇ー三三〇五〇)

出願公告 平成三年一一月一五日(平三ー五二六八四)

登録 平成四年一二月一〇日

登録番号 第一九四二六二七号

実用新案登録請求の範囲

「上方へ開口する容器本体と、これを覆蓋するための蓋板とからなる合成樹脂製の収納容器であって、前記容器本体については、その開口縁部に断面逆L字状のフランジ部を周方向に沿って一体に形成するとともにこのフランジ部の上周縁には厚肉に形成された水平突部を外方ヘ張り出し状に設ける一方、前記蓋板については、適度の柔軟性を有しかつその外周寄りにはその溝幅を拡開あるいは窄小させる方向への弾性変形が許容された凹溝を周方向に沿って凹設し、また凹溝よりも外周側には周方向に沿ってエッジ部を連設するとともに、このエッジ部を凹溝とほぼ均一の肉厚をもって連続する水平部と、水平部の外周縁において下向きに形成されかつ適度の剛性が発揮されるように水平部より厚肉とした垂直部とより形成することによって、エッジ部の内側に容器本体のフランジ部を前記凹溝の弾発力にて水密状態で抱合可能な空間を形成し、さらにこの空間において前記垂直部の内壁面からはフランジ部に対して係合可能な係止突片部を内向きに形成したことを特徴とする液体等の流動物収納容器」

(二)(1) 被告会社は、原告及び原告の取引先(株式会社シンギ名古屋営業所、株式会社愛起、株式会社木村商店及び米澤屋本店)に対し、平成五年法律第二六号による改正前の実用新案法(以下「旧法」という。)一三条の三第一項に基づき、被告会社が本件実用新案の出願人であること、本件実用新案の登録出願は現在拒絶査定の不服の審判として審査継続中であることを平成三年七月一七日差出しの内容証明郵便をもって通知し、原告に対する右書面は同月一八日に配達され(甲一の1、2)、そのころ前記取引先にも配達された。

(2) 被告会社は、原告及び前記取引先に対し、旧法一三条の三第一項に基づき、本件実用新案は出願公開中であり、原告は本件容器を製造、販売及び使用することを中止するようにとの警告をなし、右警告に違背した場合は、損害賠償等を求める旨を平成三年八月七日付け内容証明郵便をもって通知し、原告に対する右書面は同月八日に配達され(甲二の1、2)、そのころ前記取引先にも配達された。

(3) 被告会社は、原告及び原告の取引先(前記取引先並びに株式会社赤坂サンフルーツ及び株式会社パッケージ中澤)に対し、従前通知してきたとおり本件実用新案は出願登録されることが認められたから、原告は本件容器を製造、販売及び使用することを中止するようにとの警告をなし、右警告に違背した場合は、損害賠償等を求める旨を平成四年一〇月二三日付け内容証明郵便をもって通知し、原告に対する右書面は同月二四日に配達され(甲三の1、2)、そのころ前記取引先にも配達された。

(三) 前項(3)の警告書を受けて、原告は、平成四年一一月六日、被告会社に対し、「本件考案に係る収納容器は、原告が被告会社に納品していた容器をもとに被告会社が実用新案登録出願をなしたものであって、被告会社の考案に係るものではない」との主張をして、原告は本件実用新案権について先使用による通常実施権があるとの回答を行った(乙一)。

(四) そこで、被告会社は、平成五年一〇月二八日、原告に対し、本件容器の製造及び販売の禁止の仮処分命令の申立てをなした(当庁平成五年(ヨ)第一二八五号、甲五一)。

(五) さらに、被告会社は、平成六年一二月二〇日、原告に対し、本件容器の製造、販売及び販売のための展示の禁止並びに一〇〇〇万円の損害の賠償並びに本件容器の完成品、半製品及びその金型の廃棄を求める訴えを提起した(当庁平成六年(ワ)第四五六二号、右訴えを以下「前訴」という。甲一三)。

(六) これらに対して、原告は、前記仮処分事件の審尋期日及び前訴の口頭弁論期日において、本件考案は原告の従業員【C】(以下「【C】」という。)の考案に係るものであり、被告会社は本件実用新案権を冒認出願したものであるから、本件実用新案権は無効である、ないしは本件実用新案権の侵害を理由とした被告会社の原告に対する請求は権利濫用であると主張して争う(甲一四、一六ないし二〇、五二ないし五八)とともに、平成七年九月一一日、特許庁に対して、同様の理由により、本件実用新案登録の無効審判請求を行った(甲九の1)。

(七) 当庁は、平成九年六月三〇日、前訴について、本件実用新案権は被告会社の冒認出願によるものであり、被告会社の請求は権利濫用であるとして被告会社の請求をいずれも棄却する旨の判決をし(甲四)、被告会社が控訴しなかったことにより、同判決は確定した。なお、前記仮処分命令の申立ては、平成九年四月二四日に取り下げられた(甲五九)。

(八) 特許庁は、平成一〇年一月九日、右判決と同様の理由により、本件実用新案登録を無効とする旨の審決をなした(甲五)。

三  本件の争点及び争点についての当事者の主張

1  被告会社が、原告の取引先に対して警告書等を発送したこと、原告に対して仮処分命令の申立て及び前訴を提起したことはそれぞれ原告に対する不法行為を構成するか。

(原告の主張)

(一) 警告書等の発送

被告会社は、本件考案の考案者が【C】であることを十分認識しつつ、あるいは冒認出願であることを知らなかった過失により、考案者を被告【B】であるとして本件実用新案の登録出願をなし、原告及び原告の取引先に対して、①本件実用新案の登録出願をなした旨の平成三年七月一七日差出しの書面、②本件容器の製造、販売及び使用の中止を請求し、その中止をしないときは損害賠償請求をする旨の平成三年八月七日付け及び平成四年一〇月二三日付けの各書面を発送するなどして、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を原告の取引先に告知し、原告からその取引先への本件容器の納品を妨げ、もって原告の営業を妨害し、また、原告の営業上の信用を著しく毀損したものであり、被告会社の右行為は原告に対する不法行為を構成する。

(二) 仮処分命令の申立て及び前訴提起

被告会社は、本件実用新案権が冒認出願であることを十分認識しつつ、あるいは冒認出願であることを知らなかった過失により、本件実用新案権に基づき、原告に対して、①本件容器の製造、販売禁止の仮処分命令の申立てをなし、さらに、②実用新案権侵害差止等請求の訴えを提起したものであって、いずれも不当な裁判の申立てであり、原告に対する不法行為を構成する。

被告会社の代表者であった被告【B】は、本件考案に当たって、【C】に極く抽象的な指示を与えたにすぎず、本件考案の具体的な内容は原告ないし【C】において何度も改造を加えて考案したものであることを秘して、弁理士に相談し、弁理士が本件実用新案登録出願をしたものであり、弁理士が関与したことをもって、被告会社の行為が正当化されるものではない。

(被告らの主張)

(一) 警告書等の発送について

被告会社は、グレープフルーツの加工品を容器(カップ)に入れたフルーツデザートを大量に製造し、販売してきた者であり、カップの水漏れ防止のため多くの精力を費やして本件容器を考案し、本件実用新案権の登録をしたものである。被告会社は会社一丸となって本件容器の考案改善に努めたもので、【C】が本件考案の考案者であるとの認識は全くなかった。それゆえ、被告会社が原告との取引を中止する際にも、原告に本件容器の考案に係る実用新案の登録申請の事実を伝えて、その金型を引き取り、これに対し原告の担当者【C】も何らの異議を述べていない。また、本件容器の金型の開発その他一切の費用については被告会社が出捐している。

したがって、被告会社は本件容器の考案に係る実用新案登録を受ける権利は被告会社又は被告【B】に存すると考えており、冒認出願の認識は全くなく、原告及びその取引先への警告書等の発送は、旧法の定めに従い、登録出願手続を行った弁理士の指導の下で行ったものであり、被告会社にとっては当然の権利に基づくものであって、原告の営業を妨害しようなどとの認識も全くなく、被告会社には故意及び過失は存しない。

(二) 仮処分命令の申立て及び前訴提起について

前記の経過を経て、弁理士の指導の下、本件実用新案登録の出願を行い、特許庁において長期にわたり審理され、その結果本件実用新案権が認められたのであり、被告らが本件実用新案権を自己に帰属する適正な権利と考えることは、極めて当然であり、この権利に基づき、被告会社が仮処分命令の申立て及び前訴を提起したからといって、そこに原告の権利を侵害せんとする被告会社の故意及び過失が存在したとは到底いえない。また、右の訴訟提起行為等に違法性があるともいえない。

2  被告会社の不法行為により、原告に損害が発生したと認められるか。また、その損害額はいくらか。

(原告の主張)

(一) 社会的信用・名誉毀損による損害 二〇○○万円

原告は、虚偽の事実を取引先に通知され、また、不当な裁判を受けたことにより、単に、フルーツカップの販売数の激減のみならず、それ以外のプラスチック製容器の製造及び販売にも影響を及ぼすほどの信用、名誉の侵害を受けたものであり、その慰謝料として二〇〇〇万円が相当である。

法人の慰藉料請求権については判例上も認められているものである。

(二) 営業妨害による逸失利益 六六〇万円

原告は、フルーツ店である米澤屋本店(名古屋市<以下略>)、株式会社赤坂サンフルーツ(東京)、株式会社アベシン(東京)等に、フルーツカップを販売し、また、プラスチック製品の商社である株式会社シンキ(本社広島、名古屋に営業所あり。)、株式会社愛起(名古屋市<以下略>)、株式会社パッケージ中澤(松江市)等に、本件容器を始めとするプラスチック製品を販売し、右各社の指示する取引先に直接品物を送付したりしていたものである。

ところが、被告会社が警告書等の発送を行うなかで、前記取引先は、問題のある商品を仕入れて、トラブルに巻き込まれては困るとの考えから、徐々に取引を控えるようになった。特に、米澤屋本店を始め、名古屋地方における、被告会社と同業のフルーツ業者への出荷は全くなくなり、また、関東地方、関西地方への出荷も激減し、現在においては、九州地方や東北地方からの注文がわずかにあるのみで、年間二〇万円程度の売上げしかない。

原告は、本件容器の販売により、

① 昭和六三年八月から平成元年七月までの間に、一〇四万九四九七円

② 平成元年八月から平成二年七月までの間に、一四五万六六二九円

③ 平成二年八月から平成三年七月までの間に、一〇六万七〇二八円

の純利益を得ていたところ、被告会社の不法行為により原告の純利益は、

① 平成三年八月から平成四年七月までの間に、五八万四九五一円

② 平成四年八月から平成五年七月までの間に、三四万八六二七円

③ 平成五年八月から平成六年七月までの間に、三七万八〇七〇円

④ 平成六年八月から平成七年七月までの間に、七万九二四一円

に激減したものである。

したがって、原告は、少なくとも年間一〇〇万円として、平成三年八月から平成七年七月までの間に四〇〇万円の純利益が見込めたところ、一四〇万円弱の純利益しか受けておらず、被告会社の不法行為により二六〇万円の損害を被ったものである。そして、平成七年八月以降についても売上げ、純利益は上昇することなく、年間一〇〇万円の損害を被っているものであり、平成七年八月以降平成一一年七月までで四〇〇万円の損害を被っており、今後においても、本件容器の需要が認められる限り、原告の損害は認められる。

よって、原告は現在までの逸失利益分として、六六〇万円の損害を被っている。

なお、原告の売上減少に経済情勢等が影響しているとしても、被告会社の不法行為により原告に損害が発生していることは明らかであるから、民事訴訟法二四八条に基づき損害額の算定をすべきである。

(三) 被告会社の仮処分命令申立て及び前訴に対応するための弁護士費用

五〇〇万円

原告は、被告会社の不当な仮処分命令申立て及び前訴に対抗すべく、弁護士に訴訟遂行を委任し、弁護士報酬基準に従い、着手金及び報酬金を支払うことになったものである。

前訴の訴額が約三一〇一万円であることからすると、右弁護士費用として五〇〇万円が被告会社の不法行為と相当因果関係のある損害となる。

(四) 無効審判手続費用 八〇万円

原告は、従業員である【C】の考案した「液体等の流動物収納容器」を販売しているのであって、被告会社が行った本件実用新案登録が無効であることを明らかにする必要があったため、原告訴訟代理人に委任して、無効審判請求をなしたものである。

原告ないし従業員の考案に係るものに関し、冒認出願がなされた場合、その無効審判の請求をすることは正当な権利であり、本件実用新案登録が事実を秘した違法なものである以上、その無効審判を求めるために要した右弁護士費用も、被告会社の不法行為に基づく原告の損害といえる。

右審判請求手続を行うに当たっての弁護士費用としては八○万円が相当である。

(五) 本件弁護士費用 三二四万円

原告は、(一)ないし(四)の損害を回復するため、本件訴訟を提起せざるを得ず、その訴訟遂行を弁護士に委任し、弁護士報酬基準に従って、着手金を支払い、また勝訴したときは報酬金を支払うことを右弁護士との間で約した。

(被告らの主張)

(一) 社会的信用・名誉毀損による損害について

被告会社による原告の取引先に対する警告が業界における原告の信用、名誉を著しく毀損したとの点は否認する。原告は、被告会社の内容証明郵便による警告に対し、平成四年一一月六日付けで、「被告会社が原告に対し、その製造、販売、使用の中止を請求することはできない」との回答をしたのみで、その後全く何の反応もなく、具体的な異議の申出や賠償請求もしていない。万一、被告会社の警告行為が、具体的に原告の信用、名誉を著しく毀損したとするなら、当然何らかの具体的な権利行使がなされたはずである。

そもそも法人としての原告に精神的苦痛に当たるべき慰籍料の請求権が存するか否かは疑わしい。仮に「無形損害」という概念を認めるとしても、原告のように規模も小さく、社会的評価が考えにくい法人の場合には、その損害は結局営業上の損失に帰着するのであって、それ以外に慰籍料を認めることは相当でない。

(二) 営業妨害による逸失利益について

否認する。原告の売上減少は、被告会社が警告を発した平成三年以前から既に発生しており、平成三年ころはバブル経済の崩壊が表面化した時期であることからすると、原告の売上減少はそのような経済不況が大きく影響していると考えるべきである。また、カップ業界の販売競争により売上げが減少した可能性も否定できない。

したがって、原告の収入減少の主張には裏付けがなく、被告会社の行為と損害との間に相当因果関係は存しない。

(三) 被告会社の仮処分命令申立て及び前訴に対応するための弁護士費用について

否認する。被告会社の仮処分命令申立て及び前訴提起は原告に対する不法行為を構成せず、被告会社による仮処分命令の申立て及び前訴提起と、原告の収入減少との間には、因果関係は全く存在しない。

(四) 無効審判手続費用について

原告は、本件実用新案登録後、何らの異議の審判申立ても行わず、被告会社の前訴提起後かなりの期間を経た後、それに対する戦術的手段として無効審判請求をしているのであり、同請求に係る弁護士費用を被告会社に負担させるのは権利濫用であって相当でない。

また、原告の無効審判手続に用いられた資料は、ほとんど仮処分事件及び前訴で用いた資料を援用しているのであり、最終的には、前訴の判決の結論が右審判の結論を導いているにすぎない。

(五) 本件弁護士費用について

否認する。

3  謝罪広告の必要性

(原告の主張)

(一) 競業関係

原告は、フルーツデザートカップとして本件容器を製造し、それを販売業者に卸し、あるいはフルーツ販売業者に卸すなどしている会社である。一方、被告会社は、フルーツの販売等を行っており、業者にフルーツデザートカップを製造させ、同カップにフルーツを入れて販売も行っている会社である。

原告と被告会社は、フルーツデザートカップについて、最終ユーザーを共にするものであり、営業上競業関係にたつ。

(二) 営業誹謗行為

被告会社は、前記内容の警告書等を原告の取引先に発送し、あたかも原告が被告会社の実用新案権を侵害しているかのように虚偽の事実を通知し、原告の営業上の信用を害した。

(三) 信用回復措置

原告は、被告会社により毀損された営業上の信用を回復する必要があり、不正競争防止法七条に基づき、被告会社に対し謝罪広告による信用回復措置を採るよう求める。

(被告会社の主張)

否認する。被告会社は本件実用新案に基づき警告書等を発送しているのであり不法行為には該当しない。

4  被告【B】の責任

(原告の主張)

被告【B】は、被告会社代表者として、原告に損害を与えることにつき、悪意又は重過失により、前記の不法行為をなしたものであり、商法二六六条の三第一項に基づき、代表取締役として、第三者である原告に対し、損害賠償責任を負う。

仮に、被告【B】に悪意又は重過失が認められないとしても、被告会社のなした前記の不法行為は、いずれも被告会社の代表者である被告【B】が本件考案の考案者であるとしてなされたものであり、被告【B】が被告会社と共同してなしたものであるから、被告【B】は、被告会社とともに共同不法行為者としての責任(民法七〇九条、七一九条)を負う。

(被告【B】の主張)

被告【B】に悪意ないし重過失があるとの点及び被告【B】が被告会社と共同して不法行為を行ったとの点はいずれも否認する。被告【B】は、被告会社の代表取締役として先頭に立ってフルーツカップの考案改善に取り組んできたのであり、被告【B】は本件容器の製作が被告【B】を中心とした被告会社の考案に基づくものと確信していたのである。

5  原告の被告らに対する損害賠償請求権等は時効により消滅しているか。また、被告らの時効援用は権利の濫用ないし信義則に反するものといえるか。

(被告らの主張)

(一) 原告は、被告会社からの警告書等に対して、代理人名義で平成四年一一月六日付け内容証明郵便により、本件容器は原告が考案したものであり、被告会社は原告が被告会社に納品した容器をもとに本件実用新案登録を出願したものであって、被告【B】の考案によるものでないと明言しているのであるから、被告会社が最初に原告に発送した警告書が平成三年七月一八日に到達した時点において、本件損害が被告らの不法行為によるものであることを知っていたものである。

被告会社が原告に対して直接内容証明郵便をもって警告したのは、平成四年一〇月が最後であるから、前訴提起の時点においては、既に三年の時効期間を経過している。

被告らは、第三回口頭弁論期日において、右消滅時効を援用した。

(二) また、無効審判手続費用については、それを損害とするには被告会社の本件実用新案の登録出願行為を不法行為と構成するしかないが、前訴提起の時点においては、右登録出願行為から既に三年の時効期間を経過している。

被告らは、第八回弁論準備手続期日において、右消滅時効を援用した。

(原告の主張)

(一) 原告は、本件考案の考案者が【C】であると信じていたものの、被告会社の代表者である被告【B】を考案者としてなされた本件実用新案の登録出願が冒認出願であるかどうか、被告会社の本件実用新案登録が無効であるかどうかについては、専門の弁護士、弁理士の意見を聞いても判然としなかったのであって、被告会社の冒認出願が前訴に対する判決で認定され、右判決が確定した時に初めて原告は本件損害が被告らの不法行為によるものであると知ったものである。したがって、原告が、被告らに対しその加害行為の違法性を認識し、損害賠償請求権を行使することを期待することは右判決確定時まで到底困難であった。

よって、消滅時効の起算点は、右判決が確定した時とすべきである。このように解することは真の権利者の保護の図るものであり、時効制度の趣旨に反するものでもない。

また、被告会社の本件実用新案登録という違法状態を解消するために要した費用を請求しているのであって、その弁護士費用の発生は、無効審判がなされた平成一〇年一月九日の時点で認められるべきものであり、損害の発生から三年が経過していないことは明らかである。

(二) 被告らは、前訴及び無効審判の審理過程において、被告【B】が本件考案の考案者であり、被告会社が本件実用新案権の正当な権利者であるとして主張・立証活動をしていたのであり、このような主張・立証活動をしながら、敗訴判決あるいは無効審決の決定を受けた後、原告の損害賠償請求及び謝罪広告の新聞掲載請求に対し、被告らが消滅時効を援用することは、権利の濫用であり、かつ信義則に違反するものである。

第三当裁判所の判断

一  当裁判所の認定した事実経過

証拠(甲二一ないし三〇、三一の1ないし6、三二ないし四〇、四二の1及び2、四三の1ないし8、四四の2ないし7、四五の2ないし5、四六の2及び3、四七、四八、四九の1及び2、五〇の1ないし4、乙九ないし一四、一八、被告会社代表者兼被告本人【B】(以下「被告【B】」という。))及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、乙一一ないし一四、被告【B】の供述中右認定に反する部分は措信できない。

1  原告は、昭和五二年ころから、【C】を中心として、既成のフルーツデザートカップ(二五〇㏄)に代わる、新しい大きさ(一八〇ないし二〇〇㏄)のフルーツデザートカップの商品性に着目し、その考案を開始したが、昭和五四年一二月ころ時点では右考案を完成商品化するには至らなかった。

2  一方、被告会社は、昭和五四年ころから、加工した果物とシロップ等の溶液を容器(カップ)に入れたフルーツデザートの販売に力を入れていたが、既成の製品では、容器に入れていたシロップ等が漏れやすく、容量が大きすぎるなどの問題点があったことから、新たな容器を供給してくれる取引先を求めていた。

3  そこで、被告会社の代表者である被告【B】は、昭和五四年一二月ころ、フジパンの【D】に相談したところ、原告を紹介され、被告会社において【C】と会うこととなった。被告【B】は既成の製品の問題点を説明し、ひとまず容量の少量化(二二五㏄)を【C】に依頼したところ、原告において現在開発中の容器があるのでそれを被告会社のオリジナル商品として納入してはどうかと【C】から勧められた。ただ、その金型の製作等にしばらく時間がかかるので、それが完成するまでは市販のボンカップ本体と原告が信義商会から仕入れていたPフタ(ポリプロピレンの蓋)を納品するということになった。その後、原告がその見積りを行い(甲三二)、被告【B】がこれを了承したので、そのころ被告会社は原告から右ボンカップ本体及びPフタの納入を開始することになった。しかし、右容器には溶液漏れの問題があったので、被告会社はカップごとビニールの袋に入れて販売した。

4  被告会社との取引開始後、【C】は、前記1の考案に基づき、被告【B】の依頼に応じて、被告会社オリジナルの容器本体(二二五㏄)の改良に着手し、昭和五五年五月一五日、関デザインに容器のデザインを依頼し(甲四三の2)、同デザインは同年七月二日に完成した(甲三七、乙九)。原告は、同月五日、被告会社に対し、改良した容器本体の単価及びその金型代等の見積書を提出した(甲二一、三七、乙九)。

原告は被告会社に右容器本体と前記のPフタを一体として納品するようになったが、被告会社の商品はデパートへ出荷する際に、トラック等により輸送することが多く、右容器本体とPフタの組み合わせでは、輸送中にシロップ等溶液漏れが生じることの問題が依然として解決されていなかったため、被告会社は容器本体にフィルムやアルミ箔を貼って溶液漏れを防ごうとした(甲三八、四三の4ないし8、四四の3)が、完全に防ぐことができず、またアルミ箔を使った場合には容器の内容物が見えなくなるなどの問題が生じた。

5  そこで、被告【B】と【C】は、溶液漏れを防ぐ方法について検討を重ねた結果、昭和五六年一〇月ころ、溶液漏れを防ぐには、容器本体と蓋及びその嵌合方法を改良した新型の容器を作るのが良いとの結論に達し、【C】において、容器本体と蓋の改良作業に当たることになった。被告【B】は、市販のタッパーウェアの蓋と本体の嵌合方法を研究した結果、容器本体と蓋の改良により解決できるとの考えを抱き、その考えを検討の際述べたところ(乙一一ないし一四、被告【B】)、同様に蓋の改良を検討していた【C】の意見と一致し、新型の容器を開発することになったのであるが、被告【B】は、【C】に対し、容器本体と蓋の具体的な改良内容についての指示を与えるまでのことはしなかった。

6  原告は、昭和五七年二月一八日、被告会社に対し、容器本体及び蓋の改造見積書(甲二二)を提出し、被告会社の発注を受けて、【C】が右改造に着手した。【C】は、三進製作所の【E】に設計図面の作成を依頼し、同年四月二九日、三進製作所の【E】はその改造図面(甲二九)を作成した。

7  【C】は、昭和五七年五月ころ、右改造図面に基づいて、容器の試験打ちをして、被告【B】に試作品の性能を確認してもらうため被告会社に持ち込み、その場で試作品の容器にシロップを入れて容器を逆さにするなど簡易な実験を行ったところ、未だ溶液漏れの問題があることが判明したので、被告【B】は、【C】に対し、再度の改良を要請した。

8  そこで、【C】は、原告会社の応接間において、三進製作所の【F】らと善後策を協議し、溶液漏れの防止策として、蓋の一端を一・二㎜多くし、凸部の肉厚を〇・三㎜多く出す構造にするとともに、容器本体については、蓋と重なり合う部分の上端の下部を、エッジ部に丸みをもたせるようにして、それぞれ改良することを考案し、前記改造図面に鉛筆で加筆修正するなどした。

そして、金型の微調整を何度か繰り返した後、加筆後の改造図面に基づく溶液漏れのない完全な容器本体及び蓋(以下「本件考案容器」という。)が完成するに至った。そこで、原告は、被告会社に対し、同月二九日付け本件考案容器の単価見積書(甲二四)を提出し、被告会社がこれを了承したので、同年六月ころから、被告会社に対して本件考案容器の納品を開始した。

9  原告と被告会社との取引はしばらく続き、昭和五九年には被告会社の取引先拡大により原告からの入荷量も増加したが、昭和五九年一一月二六日をもって両社の取引は中止され、そのころ、原告は被告会社の求めに応じて本件考案容器の金型を持参返還している。

10  被告会社は、昭和五八年八月一〇日、【G】弁理士に委任して、被告【B】を考案者として本件実用新案の登録出願を行った。同出願は、当初、考案の容易性を理由に拒絶査定を受けたが、その後の審判により右拒絶査定は取り消され(乙八)、平成四年一二月一〇日、登録されるに至った。

二  被告会社の冒認出願について

本件考案に至るまでの経緯については前記一認定のとおりであり、右認定事実に照らすならば、本件考案は、【C】が被告【B】が提示した問題点の具体的解決方法を考案し、【C】において設計図面の変更、金型の改良等の過程を経た上で最終的な考案に至ったのであって、その過程において被告【B】から課題克服のための容器本体と蓋の改良ついて提案されたことがあるとしても、【C】に対して具体的な技術的思想が開示されたことはないから、本件考案の考案者は【C】であって、被告【B】ではないというべきである。また、被告会社が本件考案について実用新案登録出願をするに当たり、【C】から本件考案の実用新案登録を受ける権利を適法に承継したことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件実用新案登録は、考案者でない者であってその考案について登録を受ける権利を承継しないものの実用新案登録出願、いわゆる冒認出願に対してされたものであって、旧法三七条一項四号に基づき無効というべきものであり(前訴に対する判決と同旨)、前記のとおり特許庁も同様の判断を行っている。

三  警告書等の発送行為について

1  争点1(不法行為該当性)について

被告会社が原告及び原告の取引先に対しなした、①平成三年七月一七日差出しの内容証明郵便による通知、②平成三年八月七日付け内容証明郵便による通知はいずれも旧法一三条の三第一項に基づき行われたものであり、被告会社が本件実新案の出願公告前に業として本件考案を実施していた原告に対する補償金支払請求権の行使を可能にするためのものである。また、被告会社が原告及び原告の取引先に対しなした③平成四年一〇月二三日付けの内容証明郵便による通知は、特許庁が、平成四年七月一六日に被告会社の登録出願に対する拒絶査定を取り消し、本件実用新案の出願登録をすべきものとの審決をなしたので、出願公告があったことにより業として本件実用新案登録出願に係る考案の実施をする権利を専有する(旧法一二条)被告会社が本件考案を実施していた原告及び原告の取引先に対して行ったものである。

したがって、被告会社が右の各通知を発送した時点においては、被告会社が原告らに対して行った通知行為は正当な行為であったということができる。しかし、本件の場合、前記のとおり、本件実用新案登録は、被告会社の冒認出願によるものであるとして、特許庁により無効とされており、この無効事由は被告会社の登録出願行為に客観的に内在していたものであるから、右通知行為は客観的にみれば根拠を欠く行為であって、右行為は原告が被告会社の本件実用新案権を侵害しているとの虚偽の事実を原告の取引先に対して告知又は流布する行為であり、右虚偽の事実の内容は原告の営業上の信用を害するもの(不正競争防止法二条一項一一号)というべきである。

そこで、被告会社が、原告の営業上の信用を害する右行為をするに当たって故意又は過失があったかについて判断するに、被告会社が、本件考案の考案者が【C】であって被告【B】ではなく、本件実用新案登録が冒認出願により無効であることを知った上で、警告書等を発送したことを認めるに足る証拠はない。しかしながら、本件考案に原告の従業員である【C】が関与した本件にあっては、原告の取引先に対して警告書等を発送するに当たって、本件考案の考案者が被告【B】であるとして登録出願したことに問題がないか慎重に検討すべきであったにもかかわらず、被告会社は何らの検討もすることなく、直ちに原告の取引先に警告書等を発送したのは、軽率であったというほかなく、被告会社には少なくとも過失があったといわざるを得ない。

2  争点5(時効)について

前記第二の二2(二)(1)ないし(3)によれば、被告会社が原告の取引先に対して内容証明郵便をもって警告したのは、平成四年一〇月が最後である。そして、原告は、これらの警告書等により、取引の中止等を受け、損害を被ったと主張しているところ、乙第一号証によれば、原告は、被告会社からの警告書に対する平成四年一一月六日付けの内容証明郵便において、本件容器は原告において考案したものであり、被告会社は原告が被告会社に納品した容器をもとに出願したものであって、被告【B】の考案によるものでないと明言しているのであるから、原告は、遅くとも平成四年一一月六日には、本件の警告書等の発送行為が被告会社の不法行為であり、これにより損害が生じたことを知ったものである。なお、原告は、被告【B】に対し商法二六六条の三第一項の責任又は共同不法行為責任があると主張しているところ、被告【B】が被告会社の代表者としてなした警告書等の発送行為をもってその責任原因としているから、仮に被告【B】にこれらの責任があるとすれば、その責任についても、原告は遅くとも平成四年一一月六日に加害者と損害の発生を知ったことになる。

原告は、本件実用新案登録が冒認出願によるものであるかについては判断することが困難であり、前訴判決によって冒認出願であることが確認された時点で、加害者を知ったことになると主張するが、前記の理由から採用できない。

右によれば、本件警告書等の発送行為による損害賠償請求権及びこれによる謝罪行為を求める請求権は、民法七二四条前段により平成四年一一月七日から三年の経過により、時効で消滅したところ、被告らが、平成一〇年二月一八日に実施された本件第三回口頭弁論期日において、時効を援用したことは、本件記録上明らかである。

これに対して、原告は被告らによる時効の援用は権利濫用又は信義則に反するものであって許されないと主張するが、原告はその根拠として前訴等における被告会社の主張立証活動の不当性を主張しているにすぎず、当該主張のみでは時効援用の権利濫用及び信義則違反を基礎付ける事実の主張としては失当というべきである。

よって、本件警告書等の発送行為による損害賠償請求及び謝罪行為を求める請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

四  仮処分命令の申立て及び前訴提起について

被告会社が原告に対して本件容器の製造販売禁止の仮処分命令の申立て及び本件容器の製造、販売及び販売のための展示の禁止並びに損害賠償等を求める訴えを提起したのは、原告が前記警告書等に従わず、本件容器の製造販売等を継続したことによるものである。

ところで、法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求め得ることは、法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから、裁判を受ける権利は最大限尊重されなければならず、裁判行為についての不法行為の成否を判断するに当たっては、いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされることは当然である。したがって、法的紛争の解決を求めて訴え等を提起することは、原則として正当な行為であり、提訴者等が敗訴の判決等を受けたことのみによって、直ちに当該訴え等の提起をもって違法ということはできないというべきである。一方、訴え等を提起された者にとっては、応訴を強いられ、そのために、弁護士に訴訟追行を委任してその費用を支払うなど、経済的、精神的負担を余儀なくされるのであるから、応訴者に不当な負担を強いる結果を招くような訴え等の提起は、違法とされることがあることもやむを得ない。

以上の観点からすると、民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴え等の提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者等の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者等が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴え等を提起したなど、訴え等の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。けだし、訴え等を提起する際に、提訴者等において、自己の主張しようとする権利等の事実的、法律的根拠につき、高度の調査、検討が要請されるものと解するならば、裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となり妥当でないからである(以上につき、最高裁昭和六三年一月二六日第三小法廷判決・民集第四二巻第一号一頁参照)。

これを本件についてみると、前記のとおり、被告らが本件考案の考案者が被告【B】であると誤信したことについて過失があるといわざるを得ないが、被告会社が原告に対する差止請求権等を有しないことを知っていたということはできないのみならず、前記第三の一で認定した事実によれば、被告【B】は、【C】に対して従来品や【C】が製作した試作品について、解決すべき問題点を提示し、課題克服のための容器本体と蓋の改良ついて提案していること、金型費用も被告会社において負担していたところ、これらの事情からすると、通常人であれば、本件実用新案登録が冒認出願によるものであり無効であることを容易に知り得たともいえないというべきである。したがって、本件仮処分命令の申立て及び前訴提起に当たって、本件考案の考案者が法的にみれば誰であるのかという点につき更に事実を確認しなかったからといって、被告会社のした仮処分命令の申立て及び前訴提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとまではいえず、原告に対する違法な行為であるとはいえないから、原告に対する不法行為になるものではないというべきである。

よって、原告のこの点に関する主張も理由がない。

なお、原告は、本件実用新案登録の考案の無効審判手続に要した弁護士費用を損害としてその賠償を求めているところ、被告会社から提起された前訴に対抗するために無効審判手続をとらざるを得なかったことを理由として、前訴の提起行為に関する損害として右弁護士費用の賠償を主張するのであれば、前記認定のとおり、前訴提起行為をもって違法な行為ということはできないから、右主張は理由がない。原告は、無効な本件実用新案登録がされているという違法状態を解消するために要した費用は、被告会社の不法行為に基づく損害であると主張するが、無効な権利が登録されている状態を解消しないからといって、これにより直ちに原告に損害が生ずるものではない上(冒認行為により、考案者が実用新案の登録を受ける権利の行使が不能となったような場合においては、考案者に損害が生じたというべきであるが、【C】若しくは原告が本件考案を登録しようとしたことについては何らの主張立証がないし、本件実用新案が登録された段階では【C】若しくは原告が本件実用新案の登録を申請しても、新規性の欠如を理由として登録されることはなかったものと解される。)、原告に対する損害賠償請求権の行使は権利濫用として判決で棄却されている本件にあっては、法律的にも実質的にも原告に損害が発生する余地はない。よって、本件実用新案登録がされていることをもって原告に対する不法行為であるとはいえず、無効審判手続に要した費用の損害賠償は認められない。

第四結論

以上判示したところによれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 橋本都月 裁判官 富岡貴美)

<以下省略>

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